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気がついた時には、頬を温かいものが流れていた。
「こんなに切なくて、優しくて、誰かを好きでしょうがないって伝わる歌……初めて聴きました」
八神さんは私がゴソゴソとバッグからハンカチを取り出して目元を押さえるのをチラッと見たんだろう。
「ははっ、泣かせるつもりなかったんだけどな。でも、いい歌だって感動してくれたのは嬉しいな」
そう言って、
「それはね、俺の好きだった人の好きな男の歌」
と言った。
八神さんは頭がいい。
私が知りたいということだけを簡素に伝えてくれている。
そんな簡単に語れるほど浅い恋愛じゃないことくらいわかる。
酔ってたとはいえ、苦しくて誰かに甘えたくなるくらいにもがいてた過去の恋だったんだと、その顔を見ていれば充分にわかる。
その時に八神さんがどうやって愛を伝えていたのかなんて今は知らなくていい。
今私が必要なのは、
八神さんにもう一度伝えることなんだ。
この歌のように。
真っ直ぐに。
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