彼女の事情

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車は思いの外順調に流れていて、お昼を少し過ぎた頃には横浜の街を走っていた。 駐車場を探してちょっとだけ慌てている八神さんが可愛くて、テレビで見たことのある景色を眺めるふりをして、ニヤける顔を隠した。 「少し歩くけどいい?」 中華街から離れた場所しか空きを見つけられずに申し訳無さそうに苦笑いする八神さん。 「お天気もいいし、スニーカーだし、大丈夫です」 そう言って、おろしたての赤いスニーカーを見せびらかした。 「ははっ。じゃ、行きますか」 「はい!」 たくさんの人々が同じ場所を目指して歩いている。 その人の流れからは、日本語の他にも幾つもの言語が飛び交っている。 まるで日本じゃないようなそんな錯覚さえ覚える中で八神さんは、 「俺はね、その人を幸せにしたいと思ってたんだ」 そう言って、また真っ直ぐに前を見て歩みを進める。 その横で私は、八神さんの横顔を見つめて言う。 「してあげたじゃないですか」 「え?」 「だって、さっきの歌。すごく切なくて、優しくて、誰かが好きでしょうがないって歌ですよね?その人を彼女さんも好きなんですよね?その人とご結婚されてお子さんもいらっしゃるんですよね?」 「うん」 「だったら!八神さんはその彼女さんをちゃんと幸せにしてあげられたじゃないですか。違いますか?」 「そうかもしれないね」 「だから今度はご自身が幸せになったらいいと思います」 「なれるかな」 「なれます」 「本当に?」 「はい。私は幸せにする自信がありますよ」 「ははっ」 「本気なのに」 「いや、それを笑ったんじゃなくて、やーっと目黒さんらしくなったなって思ってさ」
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