接近

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 彼女の唇にそっと触れた。 人生で初めてのキスの余韻に酔いしれていたい僕だったが、顔を離すとすぐさま真洗先輩の腕が僕の首を堅くロックする。目を開けるとそこにはなんとも言いがたい目をした彼女が見えたが、それもすぐに唇の距離が0になると何も見えなくなった。 二度目のキスは強引で荒々しく、彼女の生温かい内臓の一部が僕の唇をこじ開けて口内を蹂躙してきた。 「え、やだ、ちょっと」 思わず声がでてしまった。 それでも彼女はお構いなしに僕の唇を食む。息苦しさで意識が遠のきそうになった時、「お疲れさまぁ! 撮影は以上だよ! さぁ、お絵かきブースへ移動してね!」とテンションの高いプリクラ機の声に救われた。 僕の初キッスはバッチリ記録されていた。 彼女は慣れた手つきで僕らのキス写真に次々と装飾していく。 ご丁寧に顔の上に名前も日付も入れられた。    「こんなの学校で見せたら、アンタのファンが泣いちゃうかもね」 彼女は楽しそうに、イケメン参上と書かれたスタンプを押した。 「えーと」と、真洗先輩はプリントシールを手にキョロキョロした。 ピンときた僕はリュックからはさみを取り出して彼女に渡す。 「ありがとー。気が利くね」 ……よし、この僕がまさかの初キスだってことはバレてないようだ。 でもさっきは動揺しちゃって僕としたことがちょっとダサかったな。 いっちょここでいいところを見せたい。 どうせ後で殺すにしても『格好いいあの人がまさか?!』と、驚愕して死んでもらいたいのだ。その方がドラマチックだろう? そう思った矢先、目の前の広場で少年達が野球をしているのが見えた。  これだ!
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