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. 必要最低限の物しかない簡素な部屋は、なんとなくキャンプ場のコテージや登山に使う山小屋を連想させられた。 けれどもそれは造りとしての印象だけであり、器物1つ1つのシックなセンスや清潔感のあるカーペットは、女性客が泊まるにも申し分ない。 テレビなどはなく、携帯の電波も圏外とあれば、否応なく自分を見つめ続けるしかない個室。 そんな環境があの人の面影を湧きあがらせ、胸の苦しさを再沸させていた。 『ごめん。 遥香の幸せをずっと願ってます。』 もう二度と開きたくなかったLINEには、何度見返しても変わらない、あの人からの最後のメッセージが残っている。 随分昔に届いた言葉のように思えてたけど、まだ2週間しか経っていないのには少し驚いた。 それほどその後の1日1日が、長かったということなんだろう。 少しやりとりを遡ると、まだ平穏を装っていた頃のあの人の言葉。 さらに過去までスクロールさせようとした指が突然止まり、次の瞬間、わたしはスマホをベッドに投げつけていた。 何が“幸せを願ってます”だ。 嘘つき。 裏切り者。 わたしはあんたの幸せなんか願わない。 あんな女とはさっさとダメになり、わたしみたいに泣き喚けばいい。 あの人に浴びせた罵倒が、そのまま自分に返ってくる無様さの中で、わたしは今スマホを取り出した本来の目的をすっかり忘れていたことに気づいた。 わたしは時間を確認しようとしていたんだった…… 熱を持って回らない頭のまま、再び手に取ったスマホには、23時12分の時計表示。 見取り図を見る限りペンションから歩いても5分程度に思えたけど、このままここでじっとしているのも耐えられない。 わたしはのそりと立ち上がり、投げ捨ててあったコートを無造作に羽織った。 別にあの人になんか会いたくもない──いや、そもそもそんな非現実なことなんかあるはずがない──仮にあの人に会えたとしても、多分どうしたらいいかわからない──いい年した大人が、いったい何をしようとしているんだ── ぐるぐると回り続ける自問自答が、いつまでも結論にたどり着けないまま、わたしの体はいつの間にか部屋を出ていた。 .
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