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. 玄関の鍵が開いていたのは、オーナーのさりげない計らいだろう。 懐中電灯で照らした範囲に、まだ多少ちらついた雪が映っている。 そんなに風はないものの、やはり丘上の寒気はひときわに厳しかった。 手にした見取り図を照らして見れば、モニュメントはペンションの向かって右奥。 ここよりも少し小高くなっている場所に道が確認できたから、多分あの上なんだろう。 積雪を一歩一歩と踏み締める音に、自分の心音が被っていた。 強張った体は寒さのためか緊張のためか、どちらとも判別がつかない。 やがて昇り傾斜の細い道を進み、大きく右にカーブした道を曲がると、雪の葉を重そうにたたえた木々の向こうに小さな光が見えてきた。 それが『恋人のモニュメント』であることはすぐにわかった。 こんな誰も訪れないような所の、しかも深夜にもかかわらず、ご丁寧にもフットライトでライトアップされてるらしい。 懐中電灯の光の円の中で佇む像は、存在感を放つというよりも、景色の中にひっそりと溶け込んでいるように見え、 その周囲を飛び舞う雪が、像に群がる光虫のよう。 そんな虫の中の1匹みたいに、フラフラと吸い寄せられて行ったわたしの目は、意想外にもモニュメント以外の所に釘付けとなる。 像の対局にある、崖の下だ。 おそらくここへ思い出の品を投げ捨てるんだろうけど…… 赤……青……黄色……ピンク…… なんと眼下には、息を呑むほど美しい、街の夜景が広がっているじゃないか。 それはまるで宝石の欠片を敷き詰めたような、幻想的な星の海。 1つ1つの光の瞬きが、研ぎ澄まされた大気の中で、小さくも鮮烈な輝きを放っている。 “綺麗”──心の底から素直にそう思えたのはなんだか随分久しぶりで、わたしはしばらく寒さも忘れて夜景に見入っていた。 でも、こんな何もない田舎町に、深夜でも眠らない街なんかがあっただろうか? そういえばこんな夜景を、あの人と見たことがあったっけ…… .
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