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. やがて思い出したように振り返った『恋人のモニュメント』は、写真で見たとおりの造形をしていた。 いったいこれの何が“恋人”なのかは知らないけど、見れば見るほど不思議な形だ。 石の台座に乗っているから見上げなければいけないけど、思ったほど大きなものでもない。 素材はやはりブロンズ製で、風雪にさらされた年月が青錆となって深い味わいを醸し出していた。 とうとう来てしまった、という実感。 自分に対する呆れた嘲笑と、張りつめた緊張感が半々くらいだろうか。 スマホを見ると、時刻は23時36分。 モニュメントの脇に丁度人2人くらいが座れそうなベンチがあったので、雪を払って腰をおろす。 お尻が冷たくて落ち着けないまま、わたしがコートのポケットから取り出したのは“投げ捨てる思い出の品”だった。 まだ付き合う前、わたしがあの人から初めてもらった物で、実に取るにも足らないちっぽけなオモチャ。 子供向け番組に出てた犬型のキャラのプラスチック人形で、 大学のサークル仲間だったメンツと久しぶりに飲みに行った帰り、あの人が回したガチャガチャの景品だ。 (これ、カワイイのかぁ? じゃあ根元にあげるよ、ほら) ポンと手渡された時、あの人の指がわたしの手に触れた感触。 あの時のあの人の表情も、声も、雨上がりの空気の匂いだって、今でも鮮明に覚えている。 以後このちっぽけなオモチャは、あの人と付き合うまでの間、あの人の身代りとしてわたしの気持ちを慰めてくれたっけ。 .
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