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やっと降り立った見知らぬ田舎町には、初め、音というものが存在しないように思えた。
いや、よくよく聴けば、さっきまで乗ってきた電車が遠ざかる音。
車のエンジン音。
3人の女子高生たちが、バスを待ちながら話し込む声。
そんな音たちが確かに存在するのに、すべてがくぐもって聞こえるのは、一面を覆った雪が空気の振動を吸収するからだろうか。
それとも、今のわたし自身の心が、厚ぼったい雪に覆われているからだろうか。
それならば着信音を聞き逃した可能性もあるかもしれないとでも思ったのか、
わたしが無意識に取り出していたのはスマートフォンだった。
長年使ってた待ち受け写真を外してからもうだいぶ経つのに、未だに今のディスプレイには違和感を感じることがある。
そして、外した写真と深く関わる人物からは、当然のように何の音信も入っていない。
さんざんわかりきっていたはずのことなのに、わたしの奥では、まだ彼に何かを期待しているものがあるんだろう。
そんな実感が、悲しくて、悔しかった。
やたらと白いため息が、宙を迷いながら雪景色の中へと同化していく。
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