※4※

4/5
前へ
/58ページ
次へ
. 続けて彼の声が1オクターブあがって出たのは、これもまたデジャヴを感じる話題だった。 「あ、そうそう。 そう言えばさ、吉村たち結婚するらしいよ。先週みっちゃんの両親んとこに挨拶行ったってさ」 「そうなんだ……」 「でもさ、あいつのことだからめっちゃガチガチに緊張したんだろな。目に浮かびそうで笑えてくる」 (あはは、ウケる。でも吉村くんて、子煩悩ないいパパになりそうだよね?) 当時のわたしは、こんな感じで返したはずだった。 でも今のわたしにできたのは、せいぜい「うん……」という相槌だけだ。 この話を聞いた時、あの時のわたしはもっと素直に喜び、2人を祝福できたはず。 それが今できないのは、時がわたし自身をも変えてしまったということなのか。 過去にはもっと盛り上がったはずの友達の結婚話が、呆気なく終息していくのを感じながら、わたしは思った。 もしもあの時、わたしから思いきってプロポーズしていたなら、未来は変わっていたんだろうか? 何せ付き合って間もない頃なんだから、いきなりそんな話に飛躍するのは不自然だけど…… タイミングというものは、案外ありそうでなかなかないという事を、この年になってようやく気づいた。 そうだ。 多少強引でも、多少引かれても、あんな女にこの人を取られるよりは100倍マシ。 「ねぇ、和希?」 「なに?」 この人に嫌われないようにと振る舞うよりも、もっと素直に自分の気持ちをぶつけていれば── 「あのさ……ねぇ、わたしたちも……」 今この人に自分の気持ちを伝えたならば、現実のあの人にも影響を及ぼすのだろうか。 いや、わたしは別に過去にタイムスリップしたわけじゃなくて、実際のあの人は現として同じ時間軸の中に存在している。 わたし以外の女に、この笑顔を振りまきながら、だ。 ねぇ、あなたは誰? どうして今さらわたしに、優しく微笑んでくれるの? あぁ……わからない。 頭の中がめちゃくちゃだ。 喉に詰まった声がなかなか出てこないわたしに、和希は軽く吹き出して言った。 「うん、俺たちも行ってみようよその店。今度の土曜日なんてどう? 俺仕事休みだし」 肩の力が一気に抜け落ちながら、わたしは小さく「うん」と返していた。 .
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加