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続けて彼の声が1オクターブあがって出たのは、これもまたデジャヴを感じる話題だった。
「あ、そうそう。
そう言えばさ、吉村たち結婚するらしいよ。先週みっちゃんの両親んとこに挨拶行ったってさ」
「そうなんだ……」
「でもさ、あいつのことだからめっちゃガチガチに緊張したんだろな。目に浮かびそうで笑えてくる」
(あはは、ウケる。でも吉村くんて、子煩悩ないいパパになりそうだよね?)
当時のわたしは、こんな感じで返したはずだった。
でも今のわたしにできたのは、せいぜい「うん……」という相槌だけだ。
この話を聞いた時、あの時のわたしはもっと素直に喜び、2人を祝福できたはず。
それが今できないのは、時がわたし自身をも変えてしまったということなのか。
過去にはもっと盛り上がったはずの友達の結婚話が、呆気なく終息していくのを感じながら、わたしは思った。
もしもあの時、わたしから思いきってプロポーズしていたなら、未来は変わっていたんだろうか?
何せ付き合って間もない頃なんだから、いきなりそんな話に飛躍するのは不自然だけど……
タイミングというものは、案外ありそうでなかなかないという事を、この年になってようやく気づいた。
そうだ。
多少強引でも、多少引かれても、あんな女にこの人を取られるよりは100倍マシ。
「ねぇ、和希?」
「なに?」
この人に嫌われないようにと振る舞うよりも、もっと素直に自分の気持ちをぶつけていれば──
「あのさ……ねぇ、わたしたちも……」
今この人に自分の気持ちを伝えたならば、現実のあの人にも影響を及ぼすのだろうか。
いや、わたしは別に過去にタイムスリップしたわけじゃなくて、実際のあの人は現として同じ時間軸の中に存在している。
わたし以外の女に、この笑顔を振りまきながら、だ。
ねぇ、あなたは誰?
どうして今さらわたしに、優しく微笑んでくれるの?
あぁ……わからない。
頭の中がめちゃくちゃだ。
喉に詰まった声がなかなか出てこないわたしに、和希は軽く吹き出して言った。
「うん、俺たちも行ってみようよその店。今度の土曜日なんてどう?
俺仕事休みだし」
肩の力が一気に抜け落ちながら、わたしは小さく「うん」と返していた。
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