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. それから他愛ない話題がいくつ続いただろうか。 大学時代のゼミの教員の話と、和希の会社の変わった後輩の話。 喋るのはもっぱら彼の方で、わたしは聞き役一方。こちらから話題を持ちかけるという事が、どうしてもできないでいる。 でも、だんだんとわたしは、今のこの彼との空気に心を埋めていたみたいだ。 今この瞬間、彼はちゃんとわたしを見つめてくれている。それが妄想ではない現実として、体温の届く範囲に存在している。 もしかしたら、彼との別れのほうがむしろ悪い夢だったんじゃないだろうか? そんな考えがチラリと頭をよぎったりもする。 しかし、どちらが現実でどちらが非現実なのか。その答えはやがて歴然とわたしの目に映ってきていた。 彼の横顔に次第に浮かび出してきた“動く模様”が、その向こうに振る雪だと気づいた時、わたしは慌ててスマホを確認していた。 0時23分──24分間という時間が、今のわたしにはあまりにも短すぎた。 和希はなに食わぬ顔で最近見たドラマの話を続けてるけど、どんどん体が透けていき、希薄になっていく実体感に、わたしは焦っている。 終わってしまう。 何か……何かを伝えなければ。 追い立てられたわたしが放ったのは、あの頃ならば絶対聞けなかったであろう一言。 「和希っ、わたしのこと好きっ!?」 かろうじて輪郭を保った影は、頭の後ろを手で掻きながら、おそらくは記憶にある照れた笑顔で、 「うん、好きだよ」 と答えた。 最後のあの人の言葉は、深々とした静寂の中に、いつまでも余韻となって残留していた。 脱力した体に、忘れていた寒さが思い出したように浸透していく。 頭だけが熱を持って、何度も何度も今の光景を反芻している。 これで何もかもが終わったと、そう吹っ切ることができたなら、どんなにか楽なんだろう。 わたしにとってこの24分間は、やっぱりあの人が好きだという事実を、再認識しただけのものにすぎない。 終われない。 終わりたくない。 重い体で立ち上がり、虚ろな目で『恋人のモニュメント』を見上げた。 その不可思議な形状に、ブロンズの仄かな光沢がヌルリと走った。 わたしはその像に向かって、もう誰も返してはくれない言葉を、そっと投げかけたのだった。 「和希、わたしも大好きだよ。 また、明日ね」 .
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