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. 暖炉の炎は、わたしがこの町に来て初めて遭遇した熱のある躍動で、何故か生命感という言葉が頭に浮かんできていた。 ずっとその火を見つめていると、凍えたわたしの体と同時に、凍えた心さえも溶かしてくれるような気がしてくる。 肩で張っていた力がゆっくりほぐれていくにつれ、わたしの目はようやく、暖炉の隣に飾ってある数々の写真に気がついた。 多分ここのオーナーが撮ったんだろう。 この辺りの美しい自然や、動植物たち。 どうやらこの場所の自然は、さっきの空想を上塗りするほど美しいらしい。 すっかり見とれていたわたしの視線が不意に止まったのは、1枚の人工物の写真だ。 おそらくはブロンズ製。 2本の支柱が、だんだんと互いに寄り添い、複雑に絡み合い、やがて天を向いて離れていくような形の彫像。 間違いない。 これはわたしがネットの画像で見たのと同じもの。 これこそが── 「恋人のモニュメント……ですよ」 突然後ろから聞こえた声に、緩んでいた背筋が一瞬で跳ね起きる。 咄嗟に振り向くと、そこに立っていたのは白髪に白い口髭をはやした老人。 痩せぎみの体に、白いシャツと茶色のベストを着こなしており、どことなく滲み出る品の良さがある。 そしてなりより、わたしの緊張を再び溶かしたのは、老人の満面にたたえられた柔和な笑顔だった。 「ご予約頂いていた、根元遥香さんですね? お待ちしておりましたよ。 僕はここのオーナーをしております、植野と申します」 「あ、ね、根元です。 どうもお世話になります」 植野さんは細めた目でうんうんと数度頷いてから、やがて気づいたように丸いテーブルへとわたしを促した。 「お客さんはあなたお一人だけですよ。 なんの気兼ねもなく、好きなようにお過ごし下さいね」 老人とは言え、曲がりなりにも男女が同じ屋根の下に二人きりらしい。 けれども何故か嫌な感じはなく、田舎のおじいちゃんみたいにすんなり受け入れられてしまう。 なんだか子供の頃に読んだ童話の中に身を投じているような感覚は、眉唾物のメルヘンなんかにすがりに来たためか。 それとも単に、疲れた心がもたらした現実逃避なんだろうか? 「今、宿張を持ってきますから、掛けてお待ちくださいね。 あ、ハーブティーはお好きですかな?」 わたしが黙って頷くのを見届けると、植野さんはニッコリと微笑んで奥の扉へと入っていった。 .
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