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テーブルにつき、再び誰もいなくなったロビーを見回してると、改めてここの不思議な安息を噛み締めてしまう。
内装も、ちょっとしたインテリアも、派手さはないけど、落ち着いた温かみがあり、あの老人の人柄をそのまま反映させた空間のようにも思う。
運転手さんが言っていたように、確かにここは気持ちを整理するには最適かもしれない。
そうなると、ますますモニュメントの伝説が安っぽい子供騙しに思えてくるけど、今は何も考えず、この場所に身を浸していたいと思えてきた。
「お待たせしました。
この書類にご記入願いますかな?」
オーナーの声に我に返った時、わたしの口は半開きの状態で、初めて欠伸をしていたことに気づいた。
そういえば最近、まともに眠った記憶がない。お酒の力を借りて無理矢理眠りについても、すぐに目が覚め、再び眠れない葛藤に襲われてしまうんだ。
「どうぞ、庭で栽培してるハーブのお茶です。まぁ、栽培と言っても、勝手に生え呆けてるだけですけどね」
そっと口に運んだ、土色のマグカップ。
鼻から抜けたハーブの香りが、そのまま涙腺まで抱きつつんでいくよう。
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