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った。 ザカイヤは息すらもし辛い状態の彼を、丹念に観察しながら快楽の極みへと向かって行くのだ。天国と地獄のような悦楽を二人の間に紡いでいく。 異質な信頼と、異様な快楽。磁石の様な凹凸に組み合わさり外れない性癖。  その瞬間の不自由さと呼び覚まされる快楽を思い出し、エシルバートはふっと息をついた。  午後の運動時間のため、生徒たちはそれぞれに選択している運動部へと散っていく。イギリスは元々クリケット、ラグビーをはじめとして運動に力を入れている。学業と並行して各種運動の成績も考慮され、チームとして団結力を高めていくと同時に内申にも大きく影響するものだった。  エシルバートは性格的にチーム競技を良しとしない傾向があるため、テニスを選択している。個人プレーしかできないのは経営者として向いている資質ではないのを、彼はよく理解していた。  ザカイヤでなくては、おそらく企業は成り立つまい。  だが、父はザカイヤを許すまい。  広大な敷地の美しい芝生が、目に眩しい。3th(中学2年生)の生徒たちが幼い面持ちで楽しそうにサッカーボールを抱え、競技場へと向かって行く。その後ろを守るように同じhouseの上級生達が歩いていく。  下は13歳と上は18歳の5つの年齢差は、外見的にも内面的にも大きいのが解る。だが、その差を超えても自分は余りにも異質だとエシルバートは悟っていた。  自分とザカイヤと引き離すために放り込まれた全寮制の学校は、あまりにもまともで、あまりにも普通だった。  学力もモラルも、興味もまるで違う。異星の如き辺境にエシルバートは今落とされ、自分がいかに異常なのか思い知らされる思いだった。  その瞬間に悟るのだ。  二度と、もう二度とザカイヤに会う事は出来ぬのだと。あの愛しい紫の瞳も、男の色香を振りまく容貌も二度と、見ることが出来ぬのだと。  自分たちがとんでもない隔てられた世界にいて、それが露見しては二度と許されぬ物だったのだと。  余りに眩しい芝生を行く生徒たちの光景に、エシルバートは唇をかみしめた。ゆるりと視線の先が歪み、ぽたりぽたりと雫が落ちて行く。  どんなに愛していようと、どんなに求めていようと、もう会う事は許されぬのだ。  ザカイヤ…。  君をどれほど愛していたのか、僕は言葉では言い尽くせない。
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