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んなぁお、と部屋の主に呼びかける。これで、三度目だ。だんだん声が大きくなってしまうのも仕方ないだろう。ぱたん、ぱたんと尻尾が床を叩く。一定のリズムを刻むそれが示す苛立ちは、鋭くなっていく音がよく表現していた。 ちらと時計を一瞥する。時刻は、朝の七時を過ぎたところ。幸い彼の仕事には間に合うのだが、主に頼まれたのは六時半の起床だ。とっくに半周してしまった時計の針に嘆息し、彼の上へ跳びあがる。しなやかな動きで枕元へ近づくと、幸せそうな寝顔を拝むことができた。 相変わらず、睡眠欲には弱いことで。ぱたん、とシーツを尻尾が叩く。嘆息する代わりに黒い毛に包まれた手を伸ばした。 ばり。痛々しそうな音が響く一撃。ふにふにした指先から出た鋭い爪は、主の顔を縦に裂いた。 不細工な悲鳴があがり、掛け布団が跳ねのけられる。もちろん、その被害に遭わないようにベッド脇へ逃走済みだ。 「ってー…今日も手荒だな、トウヤ」
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