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「小さいころは夫婦仲良かったんでしょ!? 旅行もして幸せな家族だったんでしょ!? それでも奥さん浮気して家出て行ったんでしょ!? これのどこに愛があるんです?」
絶対に傷付くと分かっていながら溢れ出る言葉は止まらなかった。
むしろ、わざと傷付けてみたいとすら思った。
真っ先に自分が愛とやらに裏切られたくせに、まだ愛やら恋やらを信じている、ある意味その純粋さに無性に腹が立った。
「……なんで、知って……」
「一生連れ添いたい相手が見つかっても、結婚しても、伊月さんみたいに離婚したり、伊月さんのお父さんみたいに出て行かれて最後は孤独死しちゃったら意味ないじゃないですか! むしろそっちのほうが虚しいですよ!」
伊月さんは大きく右手を振り上げた。
殴られる、と目を閉じたが、何も起こらなかった。
ゆっくり目を開けて伊月さんを見ると、彼女は振り上げた手をいつの間にか下ろしていて、そっぽを向いたまま下唇を噛み締めていた。
怒るでもなく罵るでもなく、泣くこともなく、伊月さんは踵を返して速足で立ち去った。
僕は、それでもしっかりとした足取りで歩く彼女の後姿を見て、急に後悔の波が押し寄せた。
ものすごく後味が悪い。
自分でもあんな酷いことが言えるのかと驚いた。
「……最低」
呟いた僕の言葉は虚しく宙に浮いた。
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