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あれから僕は喫茶店を避けていた。
伊月さんは相当怒っているだろう。
当然、僕から謝るべきなのだが、どういう風に切り出せばいいのか分からずに結局タイミングを逃した。
会社帰りに店の近くを通る度に、以前のように走り寄ってきて頬をつねられるならこちらもさらっと謝れるかと思ったけれど、まずそんなに軽く済まされる問題ではないだろうし、店の前を掃除する伊月さんの姿を見かけることもなかった。
逡巡したまま週を越して火曜日になった。
本来なら喫茶店で食事をする予定である。
けれど、どうしても行く気になれず、マスターの携帯に掛けたら珍しく応答があったので、行けないと断りを入れた。
マスターの声色や反応にいつもとなんら変わりはなく、すんなり了解したので伊月さんからは何も聞いていないのだろう。
ふいに大林さんにまた連絡すると約束していたのを思い出して、会社の昼休みにメッセージを入れたら急な誘いにも素早く応えてくれた。
人を好きになるのが無駄な労力だと自分で言っておきながら女の子を誘い、一方で別の女に暴言を吐いて、この行動には我ながらクソだなと思う。
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