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「彼とは別れたの。だからこれからは堂々と付き合いましょ」
と、言われて急に何かが冷めた。
まるでコソコソしていたかのような言い方だが、僕は彼女と堂々と付き合っていたつもりだ。
後ろめたさを感じているのは僕の他に恋人がいた彼女のほうであって。
「あたしたちも付き合って一年になるじゃない? 広いアパート借りて一緒に住まない?」
「え……一緒に住むのはちょっと……」
「なんで? 今から広い部屋に住むほうが、当分引っ越ししなくて済むじゃない」
「……それは、また落ち着いてから考えよう。彼氏と別れたばっかりで話が急じゃないか」
「急じゃないわよ。あたしはずっとそうしたいと思ってた」
僕は思っていなかった。
「喜んでくれると思ったのに、どうしたのよ」
「単刀直入に聞くけど、俺と結婚とか考えてる?」
「考えてるわ」
「それなら俺には無理だ。別れよう」
彼女の表情が凍り、次第に眉間に皺を寄せていった。
「俺はプライベートに干渉するのもされるのも、束縛も嫌いだ。だから一緒に住みたくないし結婚だってしたくない。相手が君じゃなくても」
「何、言ってんの? じゃあ、今までの一年間はなんだったわけ」
「真面目に付き合ってたよ。結婚しない前提で」
「ふざけてるの」
「ちっとも」
直後、左頬に衝撃があり、一瞬クラリと視界が歪んでチラチラと光が飛んだ。
よく漫画で目から星が出るシーンがあるが、こういう状態のことを言うのだろう。
「最低! あたしに彼氏がいるのを知っておきながら誘ってきたくせに、別れた途端に手の平返すってどういうことよ!」
「彼氏がいながら誘いに乗ったのはお前だろ? 大体、俺は彼氏と別れてくれなんて一言も言ってないし、隠れて付き合ってたつもりもない。コソコソしてたのはお前だけだろ?」
「他人事だと思って、よくそんなことが言えるわね。本当、最低。そんな奴だと思わなかった」
「俺だって、お前みたいに一人で暴走する女はごめんだね」
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