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「お迎えに上がりましたけど、シンデレラ」
「お迎えったって、まだ仕事あるんだけど」
「琉斗は?」
僕の声を聞きつけたのか、琉斗が奥から現れた。
「とっくんだー。とっくんも髪切ったの?」
サンドの用意をしていたマスターがこちらに目を向けた。
「あっ、なんか感じ変わったと思ったら、伊月ちゃんもトキも髪切ったんか。なんじゃ一緒に行ったんか?」
「えっ、あ、まあ、成り行きで」
マスターは「そうか、そうか」となにやら嬉しそうに微笑む。
「やっぱりこの店はキューピッドじゃな」
そう言って、モーニングを運んできた。
サンドにケチャップでハートマークが描かれている。
マスターがやったと思うと気味が悪い上に、蛇足以外の何物でもない。
「この店が潰れんでやっていけるんは、お客さんのおかげでもあるけど、ジンクスがあるけんじゃで」
「ジンクスぅ?」
「ここに通った客はここで出会った人と結ばれる」
「今思い付いただろ、それ」
「ほんまの話じゃが! えーと、今まででいうと、尾崎さん、木村さん……」
知らない名前を並べ上げ、僕は「はいはい」と聞き流しながらサンドに噛り付いた。
「そんで、わしもな」
ぴたりと止まり、僕と伊月さんが見合わせたあと、マスターに振り返った。
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