3 coffee

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「転勤で総社から倉敷に引っ越したけど、相変わらず諒さん家族とは仲良くて。一緒に旅行したりな。でも、伊月ちゃんが中学卒業する頃じゃったかな……奥さんが突然おらんくなって」 「え、家出?」 「そう。手紙も何もなく、突然。今まで普通に仲良い家族じゃ思っとったけぇ、そらびっくりしたわ。でもな、諒さんはなんとなく気付いとったらしい」 「浮気してたってこと?」 「たぶんな。諒さんも忙しい人じゃったけん、帰りが遅かったりもしたし。そのぶん休日の家族サービスは頑張っとったんじゃけどなぁ。切ねぇなぁ」  マスターは目頭を押さえた。  玉ねぎが目に染みたのだろうか。  今度はまるで中華料理人のように、でかいフライパンで野菜と米を炒め始めた。  暫くしてコンソメの匂いが漂った。 「一番心配したんは伊月ちゃん。思春期の難しい年頃にそんなことになって、ショッキングじゃろ? わしの前では明るく『わたしが家事しなきゃねー』なんて言うとったけど、家の中では色々あったと思うで。今になって思えば。わしが気付いて助けてあげれたらよかったんじゃけど、わしもすぐ転勤で大阪行ってな。それからはほとんど連絡取らんようになったんじゃ」 「いつ伊月さんと再会したの?」  マスターは皿にピラフを盛り付け、カウンターにどん、と置くのと同時に言った。 「去年の夏。諒さんの葬式で」 「……」
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