誰にも言わない

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「そんなにお前が妬いてると思ってなかったから、まずは謝る。ごめん」  両手で頬を包み込むと、謝罪のキスが落とされた。蟻坂は胸の鼓動がビンビン響き、身体がスピーカーにでもなってしまったかもしれないと思うほどだった。 「黙って出張に行って悪かった。でも、お陰でそれを見つけることが出来たから、許してくれ」  固く握っていた蟻坂の手を取り、手のひらに包まれた指輪を掴むとそれに大下は口づけた。瞼を閉じ、指輪に願いを込める様に……。端正な顔立ちが異国の王子を思わせるような品のある仕草に再び蟻坂の心臓は悲鳴を上げる。  その指輪を蟻坂の薬指に通した。誓いを立てる唇が指に触れる。大下の指にも揃いの指輪があった。 「大下……」  口から洩れた相手の名に、大下が文句をつけた。 「苗字じゃなくて、名前で呼べよ」 「さ、悟……ありがとう」  恥ずかしそうに名を呼ぶ蟻坂を微笑ましい和やかな顔で瞳に映し出す。 「一年前の今日、俺たちは本能的に結婚したんだけど、覚えてる?」  本能的って……。ポカンと考えてから真っ赤な顔になる。大下の間接的な表現に慣れるのはまだ先になりそうだ。 「フフ、思い出した? あの日以来俺はお前の虜だってことだよ。だから、これからも宜しく」  からかい半分で額に口づけると、改めて優しく抱き締める。背中に回した手が感触を確かめながら撫で続けている。 「虜ってなんだよ。それなら、ちゃんと言葉で言ってよ」  ふっと耳に息がかかり、大下は口を開いた。 「好きとは言わない。奏多……愛してる。この言葉はお前だけに捧げる」  言い終えると嬉しそうに奏多を見つめ返してきた。悟はご褒美を強請るように微笑んでいる。 「悟……愛してる。大好きだよ……」  言葉を口にして、頬が熱くなる。恥ずかしい気持ちを抑えて奏多は悟の唇に優しく誓いの口づけを……。 〈 完 〉
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