誰にも言わない

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「お前ってさ、何でも好きって言うよな」  笑うと優しい顔をムスッとしかめて、睨みつける。蟻坂は大下の口癖が嫌だった。 「何で? 好きなもんは好きって言うのは当たり前だろ?」 「だから、簡単に言い過ぎだって言ってるのっ!」  少しだけ強く声を張り上げる。大下は誰に対しても直ぐに「好き」と返事をすることが多く、苛立ちを募らせていた。 「別に迷惑かけてるわけでもないし、怒るのがおかしいよ」  迷惑? 俺にも言ってほしい……なんて言えない。  虚勢を張って、これだけは口が裂けても言いたくなかった。伝えたらきっとからかわれるだろうし、負けた気分になる自分が嫌だった。そう、プライドが許さない。 「誰に対しても直ぐに言うだろ? 『先輩のそういう所好きです』とかさ」  つい口走ってそっぽを向く。大下本人は特に悪気も無いようでおもしろがっている。 「だって、いいなって思ったらそれを好きって言って何がいけないんだ? 言われた人も喜んでいる感じだし。俺は悪くない」  反論する口調が苛立ちを見せていた。それでも、蟻坂は食い下がらず、畳みかけた。 「そういう風に言ってると、絶対勘違いする奴がいるってことを言いたいんだよ。だから、軽々しく好き好き言うな」  悟られないように包み込んで忠告するつもりが、自分の嫉妬が怒りをぶつけていると暴露していた。とっさにカッと顔が熱くなる。  本音を言って照れたのか、激怒して興奮しているのかわからなくなってきた。 「はぁ? 妬いてるんだ……蟻坂のそういう所悪くない」  ニヤついた顔を近づけてきた。拒絶するように両手で身体を押し離す。指先が僅かに震えていたが、シャツを掴むように握りしめて押し放った。 「からかうな。もういいっ!」  そう言い捨てて、大下の視界から逃れた。
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