誰にも言わない

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 あれから一度も口をきいていない。  謝ろうかとも考えた。でも、そのタイミングを見つけることが出来ずすれ違ってしまった。  大下からも連絡がない。本当にこのまま別れてしまうのかもしれない。恐ろしく寂しさが襲い掛かる。  蟻坂は大下が好きだった。今でも大好きだ。その大下は他の人には好きだという癖に、自分には一度も好きだと言ってくれたことがなかった。  どうして……。俺のことは好きじゃないのかもしれない。好きじゃないのならどうして付き合おうなんて言ったんだ? ただの遊びだったのか?  ベッドから更に重くなった身体を起こし、テーブルの上に置かれた手紙を手にした。  薄っぺらい白い封筒。別れ話だったなら、特別書くような内容もないだろう。ただ、さようならと書かれたメッセーだけしか入っていないかもしれない……。  そうだとしても、自分の嫉妬心が苛立ちに変わった代償と取るべきだろう。素直に自分にも「好き」って言って欲しいと伝えれば良かった。 後悔しても始まらない。どんよりした気分の蟻坂を爽やかな朝が明るく照らし始めた。  意を消して手紙の端を震える手で切り始める。ハサミでさっと切るのには勇気がいるからだ。ゆっくりでもやはり封は開かれ、中に指先を入れる。  便箋が指に触れ、大きく息を吐いた。一枚だろうと思われる紙を引き抜き開いて見た。
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