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ちょうど、部屋に置いてある振り子時計が、深夜三時を告げる鐘を鳴らした。
私物といえば、それくらい。
コンクリートの壁で囲まれた俺の部屋は、備え付けられているベッドとクローゼット、テーブルに椅子以外、何もなかった。
「ほら、俺のベッドに座れ」
ローガンの腕を放し、俺はクローゼットの中を漁る。
たしかこの中に救急箱があったはずだ。
制服の下に着るシャツをかき分けると、埋もれていた救急箱を発見した。
それを持ってローガンのもとへ戻ると、俺は脱脂綿に消毒液を含ませ、ローガンの頭に手を伸ばした。
「少ししみるだろうけど、我慢してくれ」
「い、いいよ、自分でやる」
「見えないだろ。いいから大人しくしてろ」
はりのある白髪を慎重にかき分け、消毒液が染み込んだ脱脂綿を傷口に当てる。
「い・・・・・・っ」
「悪い、痛かったか?」
「いや、平気だ」
顔をしかめながら、ローガンは微笑した。
少し、顔が赤い気がする。
俺はとっさにローガンの額に手を当てた。
「ラ、ラララ、ライアン!?」
「お前、熱あるんじゃないのか?」
「ないない! それよりも、一つ頼みがあるんだけど!」
「なんだ?」
俺が首を傾げると、ローガンは懐にある端末を操作し、画面を俺に向けた。
画面には、どこかのイタリア料理店が載っている。
「ここがどうした?」
「明日非番だろ? 昼飯食べに行かないか?」
「いいけど、俺昼まで用事があるから、記念公園で待ち合わせでもいいか?」
「用事?」
ローガンは首を傾げる。
その顎を掴んでまっすぐ前を向かせると、傷口に絆創膏を貼ってやりながら、俺は、
「ーー父さんと、母さんと、弟の墓参りだ」
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