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眼を背けたくなるほどの強い日差しが差す中、俺は大輪の百合の花束を抱え、終戦記念公園付近にある墓地に向かっていた。
あと数十分で正午になろうとしている。さすがに礼服は暑い。
ネクタイを少しだけ緩め、俺は歩く速度を上げた。
寝不足の体にはつらいが、正午にはローガンとの約束がある。
百合の花弁が散ってしまわないよう気をつけて歩いていると、ポケットの中で端末が震えた。
画面を指でスライドし、送られてきたメッセージを開く。
相手はローガンだった。
ーー悪い、少し遅れる。日陰で待っててくれ。
「またかよ」
ローガンの遅刻癖は相変わらずだ。
任務の時はうるさいほど時間を厳守するのに、どうしてプライベートではこうもルーズなのか。
俺は端末をしまい、終戦記念公園の角を曲がる。
公園と住宅の間を走る道路を進むと、白いアーチが見えた。
アーチのすぐ下から、大理石の階段が上まで続いている。
革靴を鳴らして階段を駆け上がると、芝生が敷かれた墓地に出た。
いくつも並ぶ十字架。
なかには長いこと墓参りに来てもらえていないものもあり、枯れた花が寂しげに揺れていた。
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