第一章

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 俺が向かうべき墓は、入り口近くにあった。  手入れの行き届いた、くすみのない白い十字架。  その足下にある石版には、「ジェンクス家」と掘られていた。 「こんにちは、父さん、母さん、リデル」  顔も知らない本当の家族が眠るこの墓には、団長に引き取られる事になったあの日以来、来ていない。  俺が十五歳の時に、ヴァンパイアの襲撃を受けて殺されたと聞かされた、あの日から。  俺は目の前で家族を殺されたショックで、それ以前の記憶が全て消えてしまった。  だから、ここに家族が眠っていると言われても、いまいちピンとこなかった。  寂しく思わないのは家族に申し訳ないが、それは全て、団長のおかげなんだと思う。 「俺は元気に働いています。団長が本当の息子のように、俺によくしてくれてるよ」  花束を置きながら、俺は白い石版に話しかけ続けた。  返事はーー当然返ってこない。  それでも、俺は噛みしめるように、言葉を選んで話し続けた。 「・・・・・・絶対、思い出すから。皆の仇、とるからな」  なめらかな質感の石版を撫でると、俺はゆっくり立ち上がった。  舞い込む風に任せて出口へ振り返ると、透き通るようなアイスブロンドと、蒼白なまでの白い肌が視界を埋め尽くした。 「え・・・・・・」  怖いくらいの美形。  優しく、どこか怜悧な微笑み。  背後に立っていたのは、紛れもなく、昨晩の高位ヴァンパイアだった。
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