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俺が向かうべき墓は、入り口近くにあった。
手入れの行き届いた、くすみのない白い十字架。
その足下にある石版には、「ジェンクス家」と掘られていた。
「こんにちは、父さん、母さん、リデル」
顔も知らない本当の家族が眠るこの墓には、団長に引き取られる事になったあの日以来、来ていない。
俺が十五歳の時に、ヴァンパイアの襲撃を受けて殺されたと聞かされた、あの日から。
俺は目の前で家族を殺されたショックで、それ以前の記憶が全て消えてしまった。
だから、ここに家族が眠っていると言われても、いまいちピンとこなかった。
寂しく思わないのは家族に申し訳ないが、それは全て、団長のおかげなんだと思う。
「俺は元気に働いています。団長が本当の息子のように、俺によくしてくれてるよ」
花束を置きながら、俺は白い石版に話しかけ続けた。
返事はーー当然返ってこない。
それでも、俺は噛みしめるように、言葉を選んで話し続けた。
「・・・・・・絶対、思い出すから。皆の仇、とるからな」
なめらかな質感の石版を撫でると、俺はゆっくり立ち上がった。
舞い込む風に任せて出口へ振り返ると、透き通るようなアイスブロンドと、蒼白なまでの白い肌が視界を埋め尽くした。
「え・・・・・・」
怖いくらいの美形。
優しく、どこか怜悧な微笑み。
背後に立っていたのは、紛れもなく、昨晩の高位ヴァンパイアだった。
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