組織を裏切った男

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ゴーッと大きな音が響く中、僕は淵に無理矢理 立たされている。チラリと下を覗くと道路を走る 車も木も豆粒より小さい。 とてつも無い高さにガタガタ震える。周りには 手で掴める柵もフェンスも無い。 「た、助けて。」 泣きそうな顔で懇願したが、雅也は冷たい目で 「早くしろよ。それともオレが蹴り落とすか?」 無表情で前蹴りのマネをする。コイツは冗談を 言うタイプでは無い。10数年コンビを組んで 来たが、組織に忠実で「人を殺せ」と幹部から 命じられれば躊躇わずに実行するヤツだ。 他の男から聞いたのだが、今年だけでホントに 3人も蹴り落したらしい。 強い風が身体をぐらつかせる。こう着状態のまま もうどれくらい時間が経っただろう。飛び降りろ とと言われて「はい、そうですか」と飛べる訳が 無いが、かといってスニーカーの前半分だけで 身体を支えるのももう限界だ。どうすれば窮地を 切り抜けられるか必死で考える。 「安心しな、アンタにはタップリ保険金賭けて あるからよ。」 無表情だった雅也がニヤリと笑う。自分に幾ら 掛かってあるか知らないが冗談じゃない。しかし 焦れば焦る程、頭の中は真っ白になって行く。 「アンタは組織を裏切ったからな。まあ空の旅を ゆっくり楽しんでくれよ。」 この男に強引に連れて来られて絶望の淵にいる と言うのに、まるで航空会社のアナウンスだと 思った。僕が組織から持ち出した荷物は既に雅也 の車のトランクに入っているが、組織としては処分 したい、かなりヤバイ品物も入っている。
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