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「見た目お酒っぽいでしょ。」
私が言うと、
「うん、お酒を飲んでる気分になるわ。」
と雪絵さんが笑った。
私は戸棚からタンブラーをもうひとつ取り
出し、自分の分の麦茶を作り、乾杯、と言っ
て雪絵さんのグラスに合わせた。雪絵さんも、
乾杯、と言い、ひとくち飲んで、冷たくて気
持ちいいと言って、また笑顔を作った。グラ
スを口に運ぶときに、氷がカラカラと涼し気
な音をたて、その音は、幼い頃、まだ日本家
屋だったうちの二階の物干しの横で揺れてい
た、風鈴の音を連想させた。雪絵さんはそん
な我が家によく顔を出し、雪絵さんが好んで
身に着けていた鮮やかの色のブラウスで、家
の中がぱっと明るくなったのを覚えている。
あの頃の雪絵さんは華やかな自信に溢れてい
た。
「最初はね。パンツに口紅がついていたの。」
「え?」
私は雪絵さんの顔を見た。
「赤い口紅。変だなって思って浮気の証拠に
でもと思ってビニールに入れて仕舞ってある
の。」
母の前ではとてもじゃないけど出来る話で
はない。雪絵さんが私にこんな話をするとは
思わなかったので私は言葉を失った。雪絵さ
んから見れば二十歳以上歳の離れた私は子供
だった。私が妊娠したことで雪絵さんと私は
女どうしになったのかもしれない、私はそん
な風に考えて、タイミング的には不謹慎だが
ちょっと嬉しくなった。
「相手っていくつ?」
「四十九歳。」
なんだおばさんじゃない、と言おうとして言
葉を飲み込んだ。雪絵さんからみたら若いと
言える年齢なのだから。
「その頃に夫を亡くしたらしくてね。富永が
可哀想だってスナックで雇ったのが最初。旦
那さんを亡くして寂しかったのか、その人の
方が積極的だったって話だけど、本当のとこ
ろはどうなんだかね。」
私は雪絵さんの顔を見た。彫りが深く、母
に言わせるとバタ臭い顔で、若い頃はアバン
ギャルドないでたちを、きりっとしたお化粧
で華やかに着こなしていたのに、その小さな
顔に化粧っ気はなく、茶色く丸い染みがとこ
ろどころに浮いている。白髪混じりの髪は雪
絵さんの今の暮らしを写すようで、私はなん
だか悲しくなった。いつ会ってもカッコいい
自慢の従妹だったのだ。
「その次はね。血がいっぱいついていたの。」
雪絵さんがぽつんと言った。
「血?」
「多分、相手が生理だったんじゃない。それ
でもセックスしたから。だからパンツに血が
ついたのよ。」
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