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ンのベランダで花に水をやりながら、「お昼、
何にしましょうか、」と話しかける。約束さ
れた風景。そんな当たり前の穏やかな暮らし
が突然目の前から消えて、老人の一人暮らし
というカテゴリーに入れられてしまうという
のはものすごい恐怖に違いない。
近い将来孫でもできれば、老後の楽しみに
なる。三輪車やぴかぴかのランドセルを貰っ
て喜ぶ可愛い孫たち。けれど、その風景は、
季節の変わり目の行事でしかない。やはり日
常は、一人で食べるご飯、ひとりで観るテレ
ビ、一人で床につき、ひょっとしたら独りで
死ぬということなのだ。
私ならどちらを選ぶだろう。答えはみつか
らない。結婚して、妊娠して、私の未来はま
だテレビのモーニングショーが始まったばか
り、その後にバラエティー番組やドラマやニ
ュースが盛りだくさんで、深夜を過ぎて番組
が終了することなど、日常生活では知るすべ
も無いところで生きているのだから。
グラスを持ったまま、雪絵さんはずっとプ
ールの水面を眺めている。私は立ち上がり、
昼下がりの太陽の光を反射して、きらきら揺
れる水を雪絵さんと一緒に見つめた。小さな
木の葉が数枚、プールの隅っこに吸い寄せら
れてぷかぷか浮かんで揺れている。
雪絵さんが振り返りながら言った。
「もう、やめてやる、ってすぱっと決心出来
たら、いいのにね。」
私は無言で頷いた。ミツバチが飛んできて、
水面すれすれで羽を震わせ低空飛行し、また
何処かへ飛んで行った。北米大陸の太陽は白
く眩しい。プールの水は何処にも流れて行く
ことが出来ずに、同じ場所で穏やかに揺れ、
柔らかい光を放ち続けている。
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