思いやりと決心

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それに気づいた時には、覗き込んできた古庄の顔が間近にあり、今にも唇が触れ合いそうになっていた。 心の準備もなく突然のことに、真琴の心臓が跳び上がり、  ガチャン!! 思わず急須を湯呑にぶつけて、お茶をこぼしてしてしまった。   「ああっ!!」 勢いよく流れ出たお茶は、座卓の上だけに止まらず、畳の上までも濡らす。 真琴は古庄の腕の中からすり抜けて立ち上がり、押し入れの中から入浴用のタオルを探してきた。 「……すまない」 古庄が申し訳なさそうに肩をすくめる。 「私こそ、驚きすぎました」 真琴はお茶をふき取りながら、古庄を見遣ってほのかに笑いかけた。 と言ったものの、いきなりあんなに古庄の顔が近くにあるなんて、衝撃以外何ものでもない。この動揺はいつまでも真琴の胸を苛んだ。 真琴の中に、古庄に出逢ったばかりの頃の感覚が甦ってくる。 圧倒されて緊張して、身動きが取れなくなってしまう。感情が制御できずに、表情さえもうまく作ることができない。 淹れ直されたお茶を飲みながら、古庄が提案した。 「少し散歩でもしてみようか。近くに滝があるらしいよ」 心待ちにしていた場所に来て、ようやく二人きりになれたことで、抑えが利かなくなってしまっていた古庄だったが、ここは少し、気まずくなった状況を仕切り直すために、気分を変えることにした。 「近くにある」と聞いていた目的の滝だったが、思ったよりも遠く、山の中の遊歩道を片道1時間ほどかけて歩いた。 滝は、人気のない奥深い所に突然現れた。 落差80mほどあるというこの滝は、水量も多く、轟音を伴いながら圧倒的な存在感を示している。  
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