思いやりと決心

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旅館に到着し、「山荘 多無良」と掲げられた茅葺の門をくぐり、ロビーになっている母屋へと向かう。 一歩母屋に踏み込んだ途端、他の宿泊客や旅館の従業員たちが一斉に色めき立つのを感じた。 真琴は皆の視線を一身に受けているように感じたが、皆が見ているのは、真琴の隣にいる古庄だ。しかし、古庄はそれに頓着することなく、淡々と手続きをしている。 皆はひとしきり、この世のものとは思えないほどの古庄に見とれた後には、一緒にいる普通すぎる真琴の存在を確認する。 そして、醸し出される微妙に訝しそうな気配を読んで、真琴は身が縮まる思いだった。 真琴自身、自分が古庄に求められて結婚したことが現実なのかどうか、未だに信じられない感覚もあるくらいだから、皆の疑問は当然だと思う。 「…真琴!」 古庄から声をかけられて、我に返る。旅館の仲居が、離れへと案内してくれるらしい。 皆の注目を浴びる中、真琴は古庄の優しい視線に迎えられ、背中を押されながら母屋を出た。 山深いここは、標高もかなり高いのだろうか、敷地内の広葉樹の木立は淡く紅葉を始めていて、その柔らかな色合いに、目を奪われながら離れへと向かう。 部屋に通されて、一通りの説明をした仲居がいなくなり、他人の目がなくなった後、真琴はホッと息を抜いた。 庭を見渡せる窓を開けて、古庄が縁側へと出てみる。真琴は、木立が作る淡い色彩の中で、一際浮き立つ存在の古庄に魅了されて、また胸がキュゥンと締め付けられるのが分かった。 息苦しさをなだめるように、真琴は備え付けられている急須に手を伸ばす。 お茶を淹れ終え、急須を置こうとした時、ふわりとした感覚に包まれて、古庄に肩を抱かれていることに気が付いた。
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