思わぬ接近。

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俺の持ってる書類を一緒に見ようと覗き込む先輩の顔がすぐそこにある。 「………確かに、お前の言う通りズレてるな。気付かなかった。」 「あ、はい。多分送信する前に誰かが変なとこいじっちゃってこうなったんじゃないかと思うんですが…。」 ちゃんと喋れてる。 大丈夫だ。 パニックになるな俺。 「その事なんだが、後5枚書類入ってるだろ?見てみろ。」 そう言われて残りの5枚をチェックする。 「……これは、意図的にされてる…?」 それも、さっきのやつとは違い、複雑だ。 「お前もそう思うか?」 「はい。これはどう見ても意図的です。一見正解に見えるけど、よく見ると少しずつ違う。俺の勘ですけど、これは新人の仕業ではないと思います。」 そう言うと、先輩は俺の右肩に手を置いた。 「どうして?」 「え、えっと、本当に勘なんであまり宛にしないほうがいいですよ?」 「いいから言ってみろ。」 ……そんな至近距離で威圧的な目を向けられたら堪らない。 今はそんなことよりも仕事だ。 「はい。……ここまで細かい数字事情を知っているのは、2.3年はキャリアを積んでないとまず無理です。その時点で新入社員ではないと思います。そして1年目の社員も出来ないでしょう。だとすると、俺の同期より上の人間の仕業と考えるほうが賢いのかなと思いました。」 「…なるほど。お前の読みは合ってると思うぜ。」 「てことは、先輩も同じこと思いました?」 「あぁ。今日専務に言われてクレーム対応したのはその2段ズレてるやつだけだった。けど、何か気になって調べてみたら、送る前のその5枚のデータを見つけた。その5枚のデータは明日送るはずのやつで、チェックしたのは2日前。」 ってことは、細工する時間は充分あったということか。
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