9人が本棚に入れています
本棚に追加
「うむ、これだ」
此乃子は満悦そうにうなずいた。僕はというと汗をぬぐうのに必死だ。
「これで教えてもらえるのか、母さんの暗号の謎」
ちら、と此乃子が上目遣いに僕を見た。そしてすっとはすをむくと、僕に問うた。
「君、おそらく夜の早いうちから寝落ちするだろう」
「は?」
何の脈絡もない問いだったが、的を射ている。その両方で僕は目が点になった。
「なんでわかった……」
「君と話していると、夜の話が全く出てこないのだよ。夜のテレビだとか、布団の中で何を考えているかとか」
「ああ、なるほど。うん、ちょっと前からそうだよ。気がついたら寝てるんだ。でも日中落ちることはないから、放ってるけどね。それがどうかした?」
「…………」
此乃子は黙った後、スマホをちらっと見て。
「運、次だ。次は『新日本古典文学大系』を借りてこい。十八巻だ」
「はあ!?」
僕は身を乗り出した。
「依頼一つにつき一冊だろ!?」
「今回はくれとは言っていない。だから複数冊頼んだっていいだろう。それに今、ヒントを与えてやったのだ。さあ、行きたまえ」
僕は助けを請うように執事さんを見た。けれど、彼の目も「行ったほうがいいですよ」と言っている。
僕は促されるまま、ツリーハウスを後にした。
最初のコメントを投稿しよう!