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「さて、これらの本だが、大きさがまちまちだろう?」
言われて見れば、五冊とも一つとして同じ大きさのものがなかった。
「それがなんだって……」
「小さいものを左に、大きいものを右に順に並べてみたまえ」
言われるままに並び替える間、此乃子の解説は続く。
「その本の題ではなく、私が言った収録されている作品名で考えて欲しい。よし、並べ替え終わったな。そう、小さいものから『芥川龍之介集』『近代異妖篇』『海野十三全集』『太宰治全集』『新日本古典文学大系』だ。作品名に置き換えると、『アグニの神』『離魂病』『骸骨館』『東京だより』『浮雲』となる。さあ、運……頭文字をとってみたまえ」
どくんと心臓が跳ねた。震える声でつむぐ。
「あ、り、が、と、う……!?」
「そうとも。それが藤子夫人の伝えたかったことだ」
一筋、涙が流れた。無機質な本達の中に、母さんを見てしまって、今まで押さえつけていた喪失感が押し寄せてきたのだ。
「母さん、僕にありがとうって言いたかったのか……?」
「そうだ。いいかい、『ありがとう』の順に本の背が高くなっていく。これは一人息子の君の成長を表しているのだろう。君の健やかな成長に、彼女は感謝していたのだよ」
そう言う此乃子の声は、今までで一番優しげなものだった。
「死を選んだ詳しい動機は私には分からないが、このような回りくどい方法を用いたことから、藤子夫人の君への愛を感じるよ」
「どういう意味だ……?」
「藤子夫人は、君がこの暗号を目にした時、私を頼ることを見越していたんだ。この意味が分かるか?」
僕は首をふった。
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