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今年僕と同じ大学に入った千鶴屋此乃子とは、中学の時に知り合った。
と言ってもクラスメイトなんかじゃなく、冒険心あふれる少年だった僕が、このあたりを探検中にツリーハウスを見つけた故という、偶然の産物だ。
彼女は中学にも高校にもいかず、ずっとここでふもとの実家から持ち出した本を読みふけっている。というより、ここに住み着いていた。
ここでご飯を食べ、ここで眠り、トイレはこの木の裏にある特設のものを使う。
女の子独りでこんなところで寝泊りできるのは、彼女の執事さんが毎日毎晩護衛しているから。ご飯の調達も蔵書の入れ替えも執事さんにさせる。
そう、此乃子はこのあたりでも有名なお嬢様なのだ。それ故かわがままで尊大。
だけど中高と学校に行かずとも現役の僕と同時に大学に入学してしまったくらい――頭がよかった。
「で、今回はどんなご用向きだ?電話では『見てほしいものがある』と言っていたが」
「ああ」
僕は本来の目的を思い出して、不敵な笑みを浮かべる此乃子に向き直った。
言葉にするのに、少し胸が痛んだが、はっきりと告げた。
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