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「前半はいいんだ。でも、後半が妙だろ?教訓っぽいけど……なんか変だし、文章の後に数字がついてる。それが気になるんだ」
僕は再度リュックをまさぐりながら、続けた。
「僕には、それが何か他のメッセージを含んだ暗号に見える。だけど考えても分からなかった。それでお前に相談に来たわけだ。はい、これ、前払いの報酬」
此乃子はその頭脳をもって探偵の真似事をすることがある。ようは依頼を引き受けているのだ。
だが、そこは強欲なお嬢様。ただでは引き受けない。とは言っても、金を要求するのではなく、欲しがるのは本だった。未読の本一冊につき、一件。これが彼女の定めたルールだ。
此乃子は手紙から目を離し、僕の差し出した本を見つめた。古本屋で買ってきた大衆小説だ。
「それは未読だ。が……今回手にしたいのはそれではない」
「え?」
此乃子は報酬の本を指定したりはしない。未読であればなんでもOKだった。
なのに。
「『芥川龍之介集』。文庫本のやつだ。これを持ってきたまえ」
「ちょ、ちょっと待てよ。そんな本うちにはないし、古本屋にちょうどよくあるか……」
反論する僕の前で、此乃子はスマホをいじりはじめた。そして表示された画面をぬいっと僕に突き出す。
「これは……」
「OPACだ。見たまえ、市立中央図書館に蔵書がある。貸出可だ。これを借りてきたまえ」
「借りてくるだけでいいのか?お前のものにはならないんだぞ?」
「それでいい。とにかく私は、『芥川龍之介集』を手に入れたいのだ」
「わかったよ……じゃあ、行ってくる」
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