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うしろのを走るクルマが、ライトをチカチカとさせて、道を譲れとうるさく言う。
僕は右によけた。ナツミは左によけた。
さあ、お先にお行き。
と示したら、急いでいるクルマは、霧のように消えた。
僕とナツミはまた寄り添うと、おかしなことがあるね、と言って、ナツミは僕の首元に、細い両腕をまわした。
僕の耳元で囁くナツミの声音が、新しい感じに聞こえる。
ナツミはいま、僕の見たことのないナツミだった。
こんな風に、ナツミは時々、僕を驚かすように姿をあらためる。
どのナツミもナツミだとわかった。
けれどどんなナツミも初めて見るナツミだった。
僕はナツミにどう見えているのだろう。
その疑問が、脳裏をかすめると、緑のトンネルを駆けている、僕たちの車窓から、真夏の山野を渡る風が、僕らをちらりと見つめて、山裾の海辺へ向かった。
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