第16章

7/36
93人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
応接室の中に入ると 少し離れた窓際のデスクに 新規ブランドリストの用紙であろう 紙を並べて、それを眺めている彼。 海外出張から帰国後、短く切った髪は 若干伸びていて、ワックスで無造作に セットされていて… 忙しくて食事もとれていないのか、 少しほっそりとした顔の春都さん。 あたしは恐る恐るだけど、 彼を見つめていて 彼はあたしの存在に気づくと 『お疲れ様、久しぶりだね』 そう、言った。 ………普通すぎる。 あたしはこんなに緊張して ドキドキしているのに……。 『はい…、お久しぶりです。 ―――NYに行くの、もう少しですね。』 なんて言ったらいいのかわからなくて つい、口走ってしまったNYの話題 もう、少し…… で、会えなくなる。 自分で言ったのに、 自分で悲しくなってる… もう、春都さん見ただけで 泣きそうなんだけど…今。 『うん、あと2週間だな。 結月チーフは……結婚するの、かな? 門崎チーフと。』 『…え?』 ゆっくり、交わっていく視線…。 春都さんとは、距離があるのに もう、この空間は二人だけの世界のよう。 何も音がしなくて、聞こえるのは 自分の心臓の音…だけ。 早く、否定しなきゃ。 結婚しないよって… 言わなきゃ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!