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「結局、世界というのは自分とそれ以外という関係で成り立っているのだよ。世界の全ての事柄は主観だと言っても過言ではない」
「そうなの?」
「そうだ。だから、私が主観でこんなに気持ちが良いと言っているのだから、私以外の人がどう思おうと私は今、最高に気分がいいのさ」
「久乃の言うことはいつも回りくどくて分かりにくいよ」
「まぁ。わざとだからな」
「わざとなの?」
僕は思わず久乃に言った。
「人間は思考する生き物だ。むしろ思考をやめてしまっては人間とは言えなくなる。分からないことを人に教えてもらうことは効率のいいことだろう。しかし、人から与えられることを享受するだけでは、教えられるだけでは思考を放棄しているのと同じだ。そんな人間にはなって欲しくないのだよ。だから、私は人と会話するときは常に迂遠な言い回しを心掛けている」
「迷惑な話だね」
「くくくっ」
素直な感想を述べると久乃が嬉しそうに笑った。
「兼森は本当にはっきりと言ってくれるな」
「付き合いは長いからね」
実際問題久乃に率直に意見を言える人間はあまりいないというのは事実のようだった。久乃は足が悪いため運動はできないが、その分頭の回転が速く学業成績では全国でもトップレベルであり、生徒会長として様々なトラブルを解決してきた人間だ。
「おはよー」
後ろから背中を突然叩かれて息が詰まる。苦しくて何度かせき込んでいるのを背中を叩いた本人が一番驚いた表情で見ていた。
「あれ? どうしたの?」
「いきなり後ろから思い切り叩くやつがあるか。陽菜岸」
僕の幼馴染の陽菜岸は久乃とは対照的に短い髪を切りそろえていてボーイッシュな雰囲気がある。
「今日も、二人で仲良くご登校ですかー。仲がよろしいですなぁ」
まるで酔っ払いの親父のようなセリフを言いながらわき腹を肘でつついてくる。
「しょうがないだろ。車いすにはこの坂はつらいだろうし」
僕たちが通っている高校は小高い丘の上にあり、学校に到着するにはどうしても急坂をのぼる必要があった。
「あはは。いつも迷惑をかけるねぇ」
にこにこと笑いながら久乃が言う。その笑顔が僕の心を少し痛くさせた。久乃が車いすになった原因は僕にあるのだから。
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