第1章

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「雪っていうのは本当に綺麗だ。表面的にはまっしろで全てを覆いつくしてくれる。その癖自分は簡単に周りのせいで茶色く染まり世界からはじき出される。皆、綺麗な時は誉めそやすのに、茶色く染まった雪はゴミのように視界から追い出すんだ。一面真っ白な雪を見たときに最初に思うことは『綺麗』だ。で、その次に思うことは何だと思う?」 「雪合戦したい!」  野球のフォームでボールを投げる真似をする陽菜岸。くすくすと久乃が笑う。 「いい案だ。私も雪合戦は一度してみたいと思っていたんだ。でも、陽菜岸みたいなことを考える人間は少ないよ。大多数の人間が次に考えることは『足跡をつけてみたい』綺麗な景色だと思った直後にはそれを壊したいと考えている。それが人間ってものなんだ」  僕も同じことを考えていたから驚く。 「別に責めているわけじゃない。自然な考えだと思うよ。綺麗と思える心も、それを壊したい思うのも人としてはよくある考え方だよ。私はそんな考えをもつ人間という生き物を愛おしく思っているからな。雪というのは人間の綺麗な部分も汚い部分も暴き出して覆い隠してくれる。だから、私は雪が好きなんだ」 「僕には何を言っているか分からないよ」  素直に思ったことを言う。 「それでいいんだ。兼森。考えろ。人間は思考する生き物だからな」  言いながら久乃の表情が少し曇ったように見えた。すぐに手に持っていた傘がその表情を隠してしまう。 「何か悩み事でもあるのか?」  僕は思わず聞いていた。久乃に悩み事があるとは平凡な中学生の僕には思えなかった。でも、僕には分からないような悩みがあるように見えたのだ。 「どうして、そんな事を聞く?」 「なんとなく思ったから」 「はははっ。考えろと言ったばかりだろう」  久乃はどこか楽し気に笑った。僕には何が面白かったのか分からないけれど、笑ってくれた久乃を見ただけで少しほっとした。 「え? 悩み事あるの? なんでも言ってよ。私はこう見えても相談マスターなんだから!」  横から陽菜岸の無邪気な声が聞こえて久乃の笑顔が深くなる。 「そうだな。一度君らに相談してみたいとは思っていたんだ」 「なんでも聞いてよー」 「どうして生まれてきたんだろうとか自分が生きている意味とか考えたことがあるか?」 「ない!」  胸を張って陽菜岸が言い切った。 「陽菜岸はなさそうだよね」 「どういうこと。私が何も考えてなさそうってこと?」
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