第1章

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事故が起こった後、僕はただ絶叫していた。救急車が呼ばれ久乃が病院に運ばれるまで僕は叫び泣き続けていた。幸い久乃は一命をとりとめた。しかし足と腰の骨はぐちゃぐちゃに骨折していた。下半身不随にすらならなかったものの、自分の足でまともに歩くことができなくなってしまったのだ。手術を終えて意識を取り戻した久乃をお見舞いに行った病室で僕は泣きながら何度も謝った。謝っても許されるものじゃないと分かっていながらも僕には謝ることしかできなかった。  久乃は困ったように笑いながら泣いてすがる僕の頭を優しくなでた。 「兼森。君が無事でよかったよ。本当に良かった」 「ごめん。僕のせいで」 「それは違う。私は私の意思で君を助けたんだ。君に責任はない。それに、ようやく分かったよ」 「何が」 「私が生まれてきた意味さ。きっと私は兼森。君を助けるために生まれてきたんだ」  晴れやかな顔で告げる久乃の両手を掴んで言った。 「僕はこれから君の為に生きるよ。救われた命だから。僕の命は君のものだ」 「そんな事はしなくていい。でも、私を必要だと言ってくれる。その気持ちは本当にうれしいよ」  久乃はそれまで一緒にいても見た事がないほどの綺麗な笑顔で笑った。 「どうした。遠い目をして。顔がにやけているぞ」  久乃の声で回想から現実に引き戻される。高校の正面入り口が見えてきていた。校門から一人の男子生徒が走ってくるのが見えた。同じクラスの奴だ。 「おーい。兼森ヤバいよ。お前今日日直だろ? 社会科の坂下が日直は朝職員室にプリント取りに来いって言ったのに来てないって怒ってるぜ」 「しまった。忘れてた」 「急いで職員室に行ったほうがいいぜ」  クラスメイトに促されて久乃を見る。 「急いで行ってくるといい」 「でも」と僕は口ごもる。この坂道は校門の前が一番急坂になっていて車いすではと思ってしまう。 「あ、なんなら私が押すよ」  陽菜岸が手を挙げて言う。僕は迷いながらも陽菜岸に車いすのハンドルを渡す。 「ごめん。よろしく頼む」  僕はそう言って職員室に向かって駆け出した。 * * *  校門までの急坂を車いすを押しながら進む。実は久乃ちゃんと二人きりになるのは久しぶりだなぁと今更ながらに思う。 「こうして二人きりというのも久しぶりだな」  久乃ちゃんも同じことを考えていたらしい。ちょっとだけ嬉しくなる。
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