第1章

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「最近は三人一緒になる機会も減ってきたしねー」 「ふふ。確かにな。寂しいものではあるが、それが成長すると言うことでもある」 「やっぱり久乃ちゃんの言うことは私には難しいよー」  昔から、そうだった。久乃ちゃんの言うことは私には難しすぎて理解できないことが多い。それでも私が一生懸命考えて答えると、彼女はその答えを真剣に受け止めてくれていた。 「さて、滅多にない女二人きりなのだ。一つ、女同士でしかできない話をしようじゃないか」  久乃ちゃんががもったいぶったような口調で告げてくる。 「女同士でしかできない話って?」 「恋話だ」  胸がぎゅっと苦しくなった。 「恋話って久乃ちゃん誰か好きな人いるの?」  久乃ちゃんはゆっくりと首を横に振った。 「私にはいない。私は人間という人たちが好きだからな。誰か個人一人を好きになったことはない」  胸の中心辺りがもやもやとした気持ちになる。 「だから、私ではなく陽菜岸の話をしようと言っているのだよ」 「私? 私も好きな人なんていないよー」 「嘘をつくな」  即答される。私はそんなに分かりやすいかなと思う。それとも久乃ちゃんだから分かってしまうのか? 「あはは。私が好きな人って誰なのかな?」  一応とぼけて見せる。たぶん無駄だろうなと思いながら。 「兼森直志だよ」  どきり。とした。名前を出されただけで心臓が跳ねる。 「分かってたんだぁ」 「陽菜岸の態度を見ていればな。心配するなおそらく兼森は気が付いていないぞ」  ほっとしたような残念なような気持になる。 「久乃ちゃんはなんでもお見通しだね」 「私は何でも見通しているわけではないさ。根拠と状況証拠から推測しているだけだ」 「それでも凄いよ」 「もう一つ。私が分かっていることがある」  本当に色々なことを知っているなぁと思って久乃ちゃんを見ると、久乃ちゃんは俯き気味に顔を下げていてその表情が見えなかった。 「陽菜岸が私の事を嫌っていると言うことだ」  ……本当に何でもお見通しなんだね。 「本当に何でもお見通しなんだね」  思わず口に出してしまっていた。いいか。別に元から隠しているつもりもあんまりなかったし。 「陽菜岸のそういう所を私は好いているよ」  どういう所なのか分からなかったので首をかしげる。 「陽菜岸が私の事を嫌いなのは兼森のせいか」「別に直志のせいじゃないよ」
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