第1章

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 直志が原因ではあるけれど。いつからだろう直志の事が好きになったのは。いつからというよりは物心ついたころには直志の事が好きになっていた。直志を好きなのが当たり前で好きじゃない状態が想像がつかなかった。 「でもね。直志が久乃ちゃんと一緒にいるとぎゅーっと胸が苦しくなるよ」 「陽菜岸は兼森が好きなんだろう」 「うん。そうだね」  するりと口から言葉が出てきた。 「兼森のどこが好きなんだ?」  悩んでしまう。何が好きかと言われても難しい。直志という人の好きじゃない部分を探すほうが難しいのだから。 「しっかり考えるべきだ。人を好きになると言うことはとても尊いことでとても醜いことだからな」 「どういうこと?」 「恋をしている時が一番人間らしいということだよ」  ますます分からない。 「やっぱり私には難しくて分からないけど、直志が久乃ちゃんと一緒にいる時を見るともやもやした気持ちになるよ。直志は私の事見ていてほしいなって思うんだよ」 「嫉妬という奴だろうな」 「ああ。これが嫉妬かぁ。そうだね。だから私は久乃ちゃんのこと嫌いなのかも。だって直志はいつも久乃ちゃんの事ばっかり考えているから。私と久乃ちゃん何が違うのかな?」 「人間は皆それぞれ違うものだよ」 「それは分かってるけど。それでも考えちゃうんだよね」 「気になるのか?」 「気になるよ。だって好きな人が選んだ人の事だから。真似はしたくないけど、参考にはなるかなって」 「兼森は私を選んだわけではないかもしれないぞ」  締め付けられるというよりも切り付けられたような痛みを感じた。なんだろうこの感じ。 「直志は久乃ちゃんの事好きだと思う」 「どうしてそう思うんだ」  私は答えられない。もやもやとした煙のような感情が私の中に満たされていく。 「久乃ちゃんが言わないでよ」  思わず口からそんな言葉が出ていた。自分でも驚く。でも、一度吐き出すと止めることができなかった。 「久乃ちゃんはいいよね。いつも直志と一緒に居られて。いつも直志を独り占めして。それなのに久乃ちゃんは直志の事が好きじゃないっていう。私の気持ちも分かっていて皆が好きだっていう。卑怯だよ。確かに久乃ちゃんは直志の命の恩人だよ。直志を助けてくれたことは私もありがとうって思ってる。でも、それで直志を縛らないでよ。
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