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「夏の風」
月刊地理を愛読している高校生がどれくらい居るか、僕には分からない。
少なくともこの日和高校では僕だけで、生徒以外には、地学教師の石田だけ。このことは学校唯一の図書司書、小池恵美しか知らない。
夏休みの初日から、僕が図書館で月刊地理を熟読しているのには、理由がある。
僕の住む東北の地方都市は、地学教師の石田にとって、いや、人文地理が本来の専門なのだが、宝の宝庫なのだそうだ。
この夏休みの間で、石田は三陸海岸沿いの集落で、フィールドワークをするのだが、その手伝いに僕は借り出されることになり、下調べとして、今月の特集記事である『三陸に於ける漁村集落の変移と分布』をノートに書き写していたのだ。
石田は、不幸にも吹奏楽部の顧問にめでたく就任してしまい、今頃は、女子高生相手に、音楽室で冷汗流している頃だろう。
ノートに一通り資料を写し取ったので、あとは、僕の好きな国勢図会でも眺めて、それから、帰ることにでもしようか。
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