1人が本棚に入れています
本棚に追加
小池さんは、短くなったタバコの先を、灰皿替りにしているスチールのボールに押し付けて言った。
「あっ、そうだ。あした図書の整理するから、手伝ってね」
いつもの事だが、僕の予定は関係なしにこの人は何でも僕に頼んでくる。その事に反対する理由は幸運にも見つからないのも、いつものことなのだが。
「だから、明日休館だったのか。で、何するの」
「新刊も増えてきたし、あまり読まれなくなった本は、書庫に移すの。だから、書庫も整理しなくちゃいけないし、ついでだから、蔵書のチェックもしてしまうわ。頼りにしているわよ、図書委員さん」
仕事の話になると、ポニーテールのよく似合う図書司書に思えるのは、やはり、僕の趣味ということなのだろうか。
図書委員は、各クラスから基本一名選出されるはずなのだが、強制ではなく、もしやりたい人間がいれば、ということに長い学校の歴史の中で変化したのだろう。僕以外にも、確か5名の委員が新学期の打ち合わせの時にはいたはずだが、夏休みは部活があったり、受験勉強が忙しかったり、小池さんもその辺のことは心得ていて、手伝いに借り出されるのは、つまり僕だけということなのだ。
もっとも、昼休みの貸し出しだったり、図書館だよりの製作だったり、そういったことはその5名が率先してやってくれるので、僕は遠慮させてもらっている。
「そっちも終わったのね」
図書準備室で、缶コーヒーとマルボロを楽しみ始めたところに、小池さんも戻ってきた。
「あたしにもちょうだい。・・・サンキュ。結構早く終わったわね。助かったわ」
「なんか毎日忙しくしてるようだね」
「そうなのよ。この学校って、結構歴史あるでしょ。蔵書の中に、県内でここにしかない本が結構あってね、県立図書館に寄贈すればいいのに、校長とかОBとか、嫌だってごねるから電子書籍化するとかって話になっちゃって、業者とのやりとりやら、文化センターでの展示企画をやるやらなんやら、あんたたちが休んでいる中、やってしまわないといけないことがありすぎて・・・」
一気にしゃべり切った達成感からか、石田の指しいれコーヒーを飲み干し、思い出したかのように、僕の方を向いて、テーブルに頬杖をついた。
最初のコメントを投稿しよう!