第一章 夏の風 第一話 屈託の青

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 小池さんは、短くなったタバコの先を、灰皿替りにしているスチールのボールに押し付けて言った。 「あっ、そうだ。あした図書の整理するから、手伝ってね」  いつもの事だが、僕の予定は関係なしにこの人は何でも僕に頼んでくる。その事に反対する理由は幸運にも見つからないのも、いつものことなのだが。 「だから、明日休館だったのか。で、何するの」 「新刊も増えてきたし、あまり読まれなくなった本は、書庫に移すの。だから、書庫も整理しなくちゃいけないし、ついでだから、蔵書のチェックもしてしまうわ。頼りにしているわよ、図書委員さん」  仕事の話になると、ポニーテールのよく似合う図書司書に思えるのは、やはり、僕の趣味ということなのだろうか。 図書委員は、各クラスから基本一名選出されるはずなのだが、強制ではなく、もしやりたい人間がいれば、ということに長い学校の歴史の中で変化したのだろう。僕以外にも、確か5名の委員が新学期の打ち合わせの時にはいたはずだが、夏休みは部活があったり、受験勉強が忙しかったり、小池さんもその辺のことは心得ていて、手伝いに借り出されるのは、つまり僕だけということなのだ。  もっとも、昼休みの貸し出しだったり、図書館だよりの製作だったり、そういったことはその5名が率先してやってくれるので、僕は遠慮させてもらっている。 「そっちも終わったのね」  図書準備室で、缶コーヒーとマルボロを楽しみ始めたところに、小池さんも戻ってきた。 「あたしにもちょうだい。・・・サンキュ。結構早く終わったわね。助かったわ」 「なんか毎日忙しくしてるようだね」 「そうなのよ。この学校って、結構歴史あるでしょ。蔵書の中に、県内でここにしかない本が結構あってね、県立図書館に寄贈すればいいのに、校長とかОBとか、嫌だってごねるから電子書籍化するとかって話になっちゃって、業者とのやりとりやら、文化センターでの展示企画をやるやらなんやら、あんたたちが休んでいる中、やってしまわないといけないことがありすぎて・・・」  一気にしゃべり切った達成感からか、石田の指しいれコーヒーを飲み干し、思い出したかのように、僕の方を向いて、テーブルに頬杖をついた。
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