五章 回収

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 部屋に居た時よりも空が暗い。こりゃあ、雨が降るな。天気予報も外れるときは外れるんだな。折り畳み傘はあるが、降る前に学園に着いてしまうか。  足早に登校していると、あの時アウロラさんと出会った裏路地から物音が聞こえる。 「またここで……?」  まさか、二度もある訳ないよな。きっと野良猫がゴミでも漁っているに違いない。そう思いながら離れようとすると、朝っぱらから路駐している車が目に入る。  この車って、確かアウロラさんと一緒に居た男と同じやつ……? 「まさか……!」  嫌な予感がして、俺は直ぐに裏路地へと足を運ぶ。すると、そこにはアウロラさんとあの男が端の方で向き合っていた。  しかも、あの男の回りには黒スーツとサングラスを掛けた如何にもボディガードと主張している男が数人居る。 「いい加減、諦めたらどうだ?」 「嫌よ……私は、あなたの物にはならない!」 「そんな事言っていると、君の大事な友達が死ぬことになるぞ?」 「セナは……関係無い!」  ──おいおい、マジかよこれ。セナさんは、相手が裏の権力者だから抗えないような事を口にしていたけど、本当はセナさん自身が人質にされてるって事かよ!  しかも、セナさんは自分が人質にされているのを知らないだろう。なんて事だ……こんなのが彼女の耳にしたら、きっと落ち込むだけじゃ済まないぞ! 「君の唯一無二の親友だったな。君が私の者になってくれるだけで問題は起きないのだ」 「黙れ! 本当は、ローレライ家の力を吸収して世界を自分達の良いようにしようとしてる癖に!」 「勿論それもあるが、私は純粋に君も欲しいのだ。まだ高校生の餓鬼だが、それにしては美しい。魔族だから、人間と違って歳も取らないしね」 「私もローレライ家も、貴様のような屑には屈しない!」 「どうやら、いつものように躾が必要のようだな」  男が指を鳴らすと、周りの男達が容赦なく彼女に殴り掛かる。あいつら程度なら、彼女の力を持ってすれば倒せるだろうに、まるでサンドバッグ状態だった。  しかも、露出している顔や足は避けて、見えないところを重点的に痛め付けている。  今すぐ助けに行かなければならないのに、俺の頭に母さんの顔が過る。俺が彼女を助ける真似をすれば、奴らは俺ではなく母さんも標的にする。そうなったら……!
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