一章 テロ事件

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「行ってらっしゃい、英雄」 「行ってきます、母さん」  俺は、母さんが作ってくれた弁当を鞄に入れ、玄関を後にする。空は雲一つない……言わば快晴だ。暖かな微風と共に、桜の花びらが何処からかヒラヒラと風に乗るように舞っている。  世間では新年度と言うところだ。今日から俺も高校二年生で、短かった春休みもあっという間に……なんて言ってみたかったが、俺には昨日までの記憶が一切欠落している。  つまり、記憶喪失ってやつだ。覚えているのは自分の名前、両親の顔と名前……そして、俺達三人が家族だったって事だけだ。  けど、俺には家族との思い出が無い。いや、忘れてしまったと言うべきかな。両親に記憶喪失について今朝聞いてみたが、二人は顔をしかめて話そうとしない。  話したくない事なのだろうと察した俺は、両親に心配掛けまいと気にしていないと笑顔を振る舞い、こうして新しい学園に向かっているところだ。  記憶喪失だからと言って、別に知識が無いわけではなく、一般常識とかはしっかりと頭にある。なので数学も解けるだろうし、漢字だって読み書き出来る。  赤信号を渡るのが違反だって知ってるし、人から物を盗んだり殴ったりするのは犯罪だって事も理解している。  俺がどんな奴だったか両親に聞いたところ、友達はそんなに多くなかったみたいだが、優しい奴だったらしい。  後、あまり関心のない事は直ぐに忘れるような奴だったみたいだ。もしかしたら、俺の記憶喪失に関係あるかもしれないと一瞬頭を過ったが、それは無いと直ぐに思い直す。  だって、それじゃあまるで昨日までの人生に俺が関心無くて忘れたみたいになる。流石にそれは有り得ない。  俺が記憶喪失になった原因を突き止めたいが、残念ながら一週間前にこの地に引っ越して来たようで、環境が変わってしまったので想起記憶はまず無いって事だ。  記憶を失う前の場所に行けば思い出せるとも思ったが、どうせ今日から人間関係もリセットだ。友人もいなかったみたいだし、家族との思い出はこれからまた埋めたら良いと楽天的に考えてると、何だかどうでも良くなってきた。 「まぁ、忘れちまったもんは仕方ないよな……」
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