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結局、何も言えないままその場で別れる。そして昼休みとなり、いつものように購買部に行こうとすると、ゼクスが背後から俺の肩を掴む。
「おい、何かあったのか?」
「え?」
「今日の午前の授業ずっと上の空だったじゃねーか。まさか、昔の記憶でも思い出していたのか?」
ゼクスに心配掛けられるなんて思ってもいなかったので、俺は唖然と立ち尽くす。そんな俺に苛立ちを覚えたのか、右手で握り拳を作り始める。
「そうじゃねぇよ。昨日、夜更かししたせいでボーッとするだけだ」
「普通、睡魔に負けて寝るだろ。大体ボーッとしてる奴は、現実逃避してる奴か考え込んでるかのどっちかだ」
「極端だな」
俺はどちらかと言うと後者だろう。今朝のアウロラさんが気になり、どうしたら良いのか解らないのだ。こいつに相談するのも何か違う気がするし、そもそも彼女の事を言ってもどうしょうもない。
家の決め事なら、他人が関与する余地なんて無いのだから。
「兎に角、何でもないんだ。心配掛けたな」
「いや、ただの好奇心だ」
「性格悪すぎだろ」
「やれやれ、ここは僕の出番のようだな」
ヌッと俺達の間から生えるように現れるネール。驚いたゼクスは、反射でさっき作った握り拳を彼の脳天に叩き付ける。
そのままネールは、割れた眼鏡を床に落としてその場に倒れ込む。
「おーい、生きてるかー?」
魔族の拳をまともに受けたのだから、ただでは済まないだろう。岩石が落ちてきたようなものだからな。下手したらそのまま昇天すらあり得る。
「おの……れ……!」
「いきなり現れたテメェが悪い」
「殴っておいてその態度か……貴様!」
「あー悪い悪い。生きてて良かったな」
「反省してるように見えないんだが!?」
こいつらのやり取りを見ていると、色んな事がちっぽけに思ってしまう。二人にそんなつもりは無いだろうが、気が紛れて良かったよ。
「ところでネール、どうしたんだ?」
「あぁ、君が授業に集中出来てないみたいだから、僕が愛用しているボーッと対策アイテムを分けてやろうと思ってね」
「へぇー」
「これなんだけど」
奴がポケットから取り出したのは、小型の音楽プレイヤーだった。
そうか、つまり自分の好きな曲を聞いてテンションを高めて授業に臨むようにしているんだな。
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