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イヤホンを両耳に付け、再生ボタンを押す。考えてみれば、こいつは一人で居るときは大体イヤホンをして音楽を聴いていたような気がする。
『もー! お兄ちゃん、ちゃんと勉強しないとご褒美あげないんだからね!』
「んんん?」
『頑張ってくれたら……お兄ちゃんが望むことを、何でもしてあげる。だから……頑張ろ?』
イヤホンを通して俺の耳に入ってきたのは、音楽ではなく女の子の卑猥に近いボイスが永遠と流れて来る。そして同時に、俺はネールという存在が恐ろしく思えてしまい、そっとイヤホンを返した。
「元気出るだろ?」
世の中、理解出来ない奴は沢山居るとは思っていたけど、こいつに関しては理解出来ない以前に理解したくもない。
一体、彼の今までの人生で何が起こってこんな事になってしまったのだろう?
アウロラさんの心配よりも、俺は彼の将来の方が物凄く不安に思えて仕方なかった。
「くくく、あまりの良さに鎌倉は絶句しているようだね」
「そうか? 俺は寧ろ、軽蔑を通り越してテンパってフリーズしてるように見えるけど?」
「鎌倉って奴は居るか!?」
俺が呆然としていると、教室の外から怒号にも似た声量で俺を呼ぶ声が耳に響く。ハッとした俺は振り向くと、昨日の連中が更に数を増やしてズカズカと教室に入ってくる。
「何だこいつら?」
「いつの間にあれだけの友達を作ったのか?」
「どう見ても友達って雰囲気じゃないだろ」
「居たな、鎌倉英雄!」
俺達三人は、教室の真ん中で彼らに取り囲まれてしまった。他のクラスメート達は、俺達から距離を置くように離れて傍観を始めている。
「要件なら手短に話せよ。購買部に行かねーとパンが売り切れる」
「購買部のパンより、自分の身の心配をしたらどうなんだ?」
「何で?」
「聞いたぞ、鎌倉。貴様は今朝、嫌がるアウロラさんの腕を痣が出来る程強く握り締めて泣かせたようじゃねーか!」
今朝のアレをまーた誰かが盗み見してる奴が居たのか。しかも、殆ど真実とかけ離れた事実になってるんだけど……しかもこいつら、昨日と違って殺気を感じる。
「誰がそんな事するかよ。本人に聞いたのか?」
「本人に聞かずとも、俺達は彼女の事を理解しているからその必要はない!」
あー、こいつら馬鹿だな。うん、これはかなり面倒な事に巻き込まれたようだ。
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