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祖父母の家はこのバス停から20~30分程度だ。
忠孝はスポーツバックを担ぎ直し、ぬばたま色の髪をかきあげると雨上がりの道を歩き始めた。
***
男は少年とすれ違った。
綺麗な黒い髪、涼しげな切れ長の目に整った鼻梁。最近のイケメン系男子とは違う。ああいうのを美形と言うのかと男は思った。おまけに長身ときたもんだ。
対して自分はどうだ?
三十代独身、彼女なし。浮いた話しどころかそもそも出会う時間も場所もない。無様にはなりたくないと思いつつもお洒落とは縁遠い生活。学生時代に先輩に脅されてやっていた空手が功を奏したのか太ってない事だけが救いという有り様。至って平々凡々な自分とは大違いだ。
世の中にはあんな何でも揃った子がいるのかと驚き、その後ろ姿を見送っていた。
有り体にして言えば、彼は暫しその少年に見とれていたのだ。
「ん?佐々木さん。どうしたね?」
急に立ち止まった佐々木を気遣って前を歩いていた初老の男性は声をかけた。
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