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忠孝はふぅと小さく息を吐いて祖父母の家の門をくぐった。
田舎と言えど流石に蔵を持っている程の家だ。広い庭と古いながら立派な日本建築が忠孝を迎えてくれる。
敷石に沿って歩いていると斜め後ろから女性の声が響いた。
「あら───っ!
忠ちゃん!!なんだや。歩って来たの!?連絡くれれば駅まで車出したのにぃ」
振り返ると四十代とおぼわしき女性が作業用エプロンに身を包み、一輪車を押していた。
叔母の奈美江だ。畑から帰って来たのだろう。鍔広の帽子を被りゴム手袋までしている。
「奈美江叔母さん、こんにちわ」
「バスで来たんでは遠かったでしょー。こっちから呼んだのにかえって申し訳ないわ」
「いえ、歩くのけっこう好きなんで。ゆっくり景色を楽しんで来ちゃいました」
こちらを気遣う奈美江に対して忠孝は大丈夫と笑って見せた。事実、田舎の景色が嫌いではない忠孝は気楽な小旅行くらいの気持ちでここまで来ていた。
忠孝の言葉に奈美江も漸く納得した様子で「なんにも無いけどゆっくりして」なんて笑顔を見せた。
「あ────っ!
たぁ兄ちゃんがここにいる!!」
今度は黄色い声がこだました。
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