蔵の中

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声の主は一人の女子中生だ。 忠孝が振り向くや否や滑り込むようにして傍らに走って来て、忠孝の腕に恋人みたいに自分の腕を絡ませた。 更には流れる速さでスマホを取り出すと「私たち、デートしてまぁす」と言わんばかりのポーズで自撮りを決めたのだ。 あまりにいきなりの事で忠孝も抵抗する間もなく、「はい!チーズ」の掛け声に流されて訳も解らず目線は確りカメラを向いてしまった。 「やったー!! これ!後で友達に自慢しよっ」 「これ葉子。ちゃんと挨拶なさい!」 奈美江が女子中生を叱る。 他でもない。彼女、葉子は奈美江の娘で忠孝の従妹だった。 部活帰りの彼女は玄関先でご自慢の従兄殿を見付けてしまったと言うわけだ。 確かに“カッコいい従兄”ならまだしも“美人の従兄”はそうそう居ない。 母から今度遊びに来ると聞かされてから彼女はこの1週間、ずっとカメラに収めるべく彼の人の来訪を心待ちにしていたのだ。 その結果がこの突撃撮影だ。 「葉子ちゃんは相変わらず元気そうだね」 忠孝は苦笑混じりに微笑んだ。
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